彷徨い 何を 望みて 求め 行き交う 出会いゆきたる
雲井の 彼方 風の 希望 如く 遥か澄み渡りゆく

-sakitama-




 曇天から、時折晴れ間が覗く。陽光に照り返る白と灰の光陰が、群れ重なる雲を緞子のように見せる。
 原生的で幻想的に輝く雲間を、自室の戸に凭れながら、七奇はどこか遠くに思いを馳せるように見つめていた。
 山腹に佇む一つの家屋。そこには賢人が住む。
 かなりの広さを誇るそこは、世に名高い水鏡先生の学門だった。
 この門を潜ろうと、多くの人々がやってきては、ある者は己の程を知って去り、ある者は己を磨くために残る。わが子に英才教育を施すために来訪する者も珍しくない。
 その中で、とりわけ特別な存在―――八奇と冠された、八人の門下生。
 その一人、上から数えて七人目の弟子は、長年を経てすっかり慣れ親しんだ己の室において物思う。

 自分たちは、何処へ行くのか。

 何処へ行き、何をし、一体何を残すのか。

 水鏡先生に選出された自分を含める八人の弟子たちは、確実にこの乱世に身を投じ、何かを為すことになる。
 得るのは名声か、それとも誹謗か―――
 房間(へや)と同じく、同じ時を長くともに過ごしてきた師兄弟の面々を脳裏に描く。彼らのうちと、対立することになるのか。
 恐らくそんなことは、空に問うても教えてはくれない―――たとえそれが星々の浮かぶ夜の空であっても。
 自分たちの向かう先を知るものなど、ありはしない。




 一奇は、丁度房間を出たところだった。
 曇り空の下、薄暗い風光はいっそ自然のありのままの姿を感じさせ、不快ではない。むっと身体に圧し迫るような暑気の中に、濃い水の匂いを嗅ぎとる。緞子の光を放つ雲の狭間を見上げた。―――ひと雨来るかもしれない。
 水鏡八奇の内、長兄。首奇とも称される最年長の男は、ふと走廊の果てに自分と同じように表に出て天を望んでいる弟弟子の影を見止めた。
 年齢では間に五人の兄弟弟子を隔てているが、房間はさほど離れてはいない。
 茫洋と眺めている姿を見て、一奇の双眸の内に光が閃く。

「老七」

 不意に掛けられた声に、七奇はようやく己以外の存在を意識に止めて、首を巡らした。

「ああ、大師兄」

 一奇がゆったりと近付いてくる。戸の脇に立ち、七奇と並んで空に顔を向けた。

「降りそうだな」
「……そうですね」

 一奇はちらりと七奇の顔を盗み見た。今はもう視線は曇天へと戻されているが、名を呼ばれ自分を見止めた途端、一瞬表情に浮かんだ色を、彼はしっかり見捉えていた。―――憂鬱と、僅かな煩難。
 軽く鼻を鳴らし、腕を組んで一奇は少し挑発気味に言った。

「老七、勝負をしないか?」

 七奇は顔も向けずに、何をですか?と無感動に呟いた。
 察しているくせに敢えて気づかぬふりを貫く弟弟子に、一奇は再び鼻で笑う。

「どうせお前もすることがなくて暇なんだろう。雨が降れば外にも出られんしな。碁でもしようじゃないか」

 今度こそ、はっきりと七奇はげんなりした表情を浮かべた。
 嘆息しながら、

「大師兄。申し訳ないですが、またそれは今度に」
「何だ、用事でもあるのか」
「いえ、別にそういうわけでは―――
「ならいいじゃないか」

 強引に押し通そうとする一奇に、七奇は手法を変えて言葉を重ねた。

「イヤですよ。だって大師兄と碁を指すと拮抗してなかなか勝負がつかないから」
「おだては通じないぞ」

 一奇は嘲けるように一笑した。
 七奇は溜息をつく。この年長の兄弟子はしょっちゅうこうして七奇に挑発してくるのだが、それが七奇にはやや煩わしかった。

「どうもこうも、今はそんな気分ではないのです」

 段々取り繕うのが面倒になったのか、最早本心露に淡々と答える。一奇を見ようともしない。
 そんな師弟の態度に、一奇はしかし笑みを浮かべたまま、七奇の顔を覗き込むようにして低く告げる。

「老七、分かっているだろう。俺は試したいんだ。―――『臥龍』の名が相応しいのは、どちらかを」

 俺は『臥龍』を取り合うのは、俺とお前だと思っている――― 一奇は笑みを消し、厳しく真剣な表情で七奇を間近から見据えた。

「まだ誰が『臥龍』の称号を得るとは決まったわけでもないでしょうに」
「いいや、恐らくもう決まっている」

 何か確証でもあるのか、本気の眼差しはそのまま、一奇は強硬に言い放った。
 さすがに七奇が眉を顰めて反駁しようとした時、二人が立っている走廊の高覧を越えた向こう側、庭院を見慣れた人物が通り過ぎた。
 その人影を逸早く視界に入れた瞬間、口を開きかけていた七奇の表情がふと変わる。 

「師兄」

 戸口から身を起こし高覧の方へ一声。
 一奇が何かをいいかけ、留まった。
 その人物は、七奇の声を聞くと「ん?」と首を起こした。

「……老四」

 七奇の向かう先を追うように目を向けた一奇が、小さく名を声に出した。
 不穏な生暖かい風が吹き始める中で、四奇は髪を風に攫われながら、不思議そうに二人の兄弟弟子を高覧の下から覗き上げた。

「そんなところで何を?」
「それはこちらの台詞です、四師兄。貴方こそこの天気の中そんな格好で外に出て一体何を」

 七奇は高覧の階段を下りると四奇の側に寄った。その拍子に、四奇の肩に止まっていた鴉が飛び立つ。
 四奇は髪も結ばずに長く靡かせ、長袍に更に薄い長衣の単を羽織っただけの、まさに寝起きとも言うべき姿でウロウロしていたのだ。

「そんな薄着で風なんかに吹かれていたら身体に障りましょう。ただでさえこの間も伏せっていたのに。この空の様子ではいずれ嵐がやってきますよ」

 七奇はこの病弱な兄弟子の身体を労わり、屋根のある方へと肩を押す。立ち並ぶと七奇の方が少し背が高い。
 一方の四奇は眉根を寄せ、小言を繰り出す七奇を煩わし気に見上げた。

「うるさいな、何だお前は。俺の母親か」

 迷惑そうに肩の手を外させ、四奇は建物とは違う方に進もうとする。

「一体この天候で何処へ行くおつもりなのです」
「街の妓楼」

 山を下りると、小さな城街がある。その内の花街が四奇のお気に入りの遊び場なのは誰もが知るところだ。病弱なくせに精力的とは面妖な、と愛妻家気質の一奇などは思う。
 だが七奇はそれだけでないものを見たようだ。

「今日は華大夫が往診に来る日では?」

 四奇は答えず、しれっとそっぽを向いたままだ。聞こえないふりをしているのか、それとも黙然と肯定しているのか。
 七奇は困ったように嘆息する。四奇は華陀が来る日になると、決まって房間から脱け出そうとした。―――華陀の調合する薬草が相当嫌らしい。

「師兄、子供ではないんですから」

 七奇が言うと、四奇は、このおよそ気を荒げない男にしては珍しく、猛然と反発してきた。

「お前そう言うがな、一度あれを味わってみろよ。絶対に二度と飲みたくないと思うぞ!」
「では二度と飲まなくてもすむように、房間で大人しくしていてください」

 再び背中を押すようにして室に帰そうとする弟弟子に、四奇は不敵な笑みを唇に刷いた。

「お前が俺を止められるとでも?」
「俺に止められずとも、老二や老三ならばどうでしょうか」

 その名前が出た途端、四奇は押し黙った。憮然と眉間に皺を刻む。

「両師兄に言いますよ」
「……お前は全く本当に可愛くない」
「光栄です。さあどうぞ」
「ああ分かった分かった」

 煩そうに手を振って七奇を視界の外へ追いやる四奇に、七奇はにやりと微笑する。

「その代わりと言ってはなんですが、気晴らしに囲棊(いぎ)のお相手をしましょう」

 はぁ?とばかりに、胡乱気に片目を眇めながら四奇が首を向ける。
 それまで蚊帳の外に置かれていた一奇も双眸を瞬く。その時ようやく高覧の上から口を挟んだ。

「おい老七、何だそれは」

 重ねて四奇も不満を露にする。

「そうだ、何で俺がお前と囲棊をする話になる」
「いいじゃないですか。どうせ暇でしょう?」
「いやだ」

 即答で四奇は拒否した。

「お前と対局すると一局が長いんだもん」

 七奇は長考が多い。特にこれが四奇や三奇が相手となると、その思考や策の先裏を読もうとして、どんどん対戦が長くなる。なかなか勝負もつかない。
 どこかで聞いたようなやり取りを耳にして、高覧の上で一奇は顔を顰める。未だに言い募っている七奇を睨むように見た。
 気づかない四奇は、追い払うための言葉を並べ立てている。

「老三に相手してもらえよ」
「嫌ですよ。三師哥は自分の分が悪くなると、すぐにうやむやにしちゃうんですから」
「『暗黒兵法』だろ」

 四奇がにやにや笑う。だが七奇は渋面だ。この間かの三番目の兄弟子と対局したときなどは、最終的に碁盤をひっくり返された。それでもしれっと「ああ済まん、手が滑った」と笑うのだから、彼の胆も侮れないのだが。

「しかもお前うるさいし」
「師兄がなかなか本気を出してくれないからですよ」

 知るか、と四奇は肩を竦める。全く取り付く島もない態度に、しかし七奇は珍しく食い下がった。
 先程の恨みもあるのか、四奇は不機嫌そうに眉を寄せて難色を示す。

「何も対戦相手は別に俺でなくても」
「そうだ」

 一奇が恨めしげな声音で告げる。四奇はちらりと長兄へ視線を上げた。
 だが、その時一瞬七奇の表情に走った色に、四奇はふと目を眇める。面持ちを改めて二人を見比べる。彼と、長兄の間にある微妙な感情のズレを、敏感に感じ取ったようだった。
 一言では言い表し難い煩雑な感情が交錯する七奇の面をしばらく見つめ、それからどこか仕方なさそうに、四奇は瞼を落として嘆息した。

「……分かった、いいだろう」

 至極気だるそうにそう言う。
 七奇の顔にあからさまな安堵の色が浮かぶ。それを見ながら、四奇は甚だ気は乗らないがしようがないと心中で再びため息をついた。

「その代わり、弾棊(はじき)だったらな。囲棊はなしだ」

 七奇は不服そうにしたが、しかしせっかく四奇が応じてくれる様子なので、下手に刺激して彼の気が変わらないようにと、それ以上の反駁は控えた。

「ということで大師兄。悪いけど、老七は借りていくよ」
「……」

 一奇は答えなかった。納得のいかぬ憮然とした表情で、黙然と弟弟子たちを見下ろす。
 四奇はそれを肯定ととったのか、あるいは否定でも彼は構うつもりもなかったが、さっさと背を返して自分の房間の方角に爪先を向ける。
 嬉々と頬を緩める七奇を伴い、二人はそこを歩き去っていく。
 一人残された一奇は、彼らが角の向こうに消えるまでその背を見続けた。
 一奇は四奇とはそこまで親密ではない。だからといって長年共にいるわけだから、全く疎遠というわけでもない。特に好きでも嫌いでもなく、自ら近づくことは殆どない関係。敢えて言うならば可も不可もない、互いにそんな距離感だった。
 七奇が彼を尊敬しているのは知っている。だが、一奇にしてみれば、四奇は確かに強い才を持っていても、だからといって八奇の中では特別逸出しているものだとも思わなかったし、いつもやる気がなく淡々と笑っている彼は意識にとりとめるほどでもなかった。いわんや彼が―――自分や七奇、あるいは六奇とともに、『臥龍』『鳳雛』の称号を争う人間だとは思えない。
 七奇が何故あそこまで四奇に拘っているのか―――それだけがただただ理解不能だった。




「お前達、喧嘩でもしたのか?」

 激しい雨音を横に、気だるげな調子で四奇が訊いた。頬杖をついた顔の先で、詰まらなそうに駒を弾く。その髪を、水気を含んだ風が揺らす。
 二人が弾棊をしているのは、四奇の室の前だ。四奇が強硬に主張して譲らなかったので、厚手の上衣をもう一枚羽織ることを条件に、仕方なく七奇が了承したのだ。
 室の扉を開け放ち、中の卓子と椅子を外に運び出している。そこまでして外に出る必要はあるのかと問えば、四奇は「こんな蒸した日に閉鎖された室内にいるほうが、よほど息苦しくて耐えられない」と返した。
 それで、この状態に至るわけである。
 だがたとえ児戯でも、七奇は存外これを楽しんでいた。
 不意な兄弟子の質問にも、彼は当然のごとくその意図を汲取って答える。

「別に仲違いはしてませんが」
「……あまり、大師兄を敬遠してやるなよ」

 七奇は棊盤から顔を上げた。意外だ、と言わんばかりに目を開いている。

「貴方がそこまで師兄思いな人だったとは知りませんでした」
「別にそんなんじゃない。ただ、あまり蔑ろにはするなと言っているだけだ」

 彼は自尊心が高いんだから、とぼやく。言っていることが全く繋がっていないとなど、きっと本人は気づいていないのだろう。七奇は心底で思う。
 四奇は他人に対して基本的に淡白で冷たい。そういう態度で接する。だが七奇は知っている。彼は、態度や言動などの表面的なところでは無情のように見えるし、時にそのように振る舞うが、実は情に深く情に脆い一面がある。だから数刻前、自分が醸した無言の救いの声を無視できなかった。
 決して、意識してのことではないのだろうが。
 七奇は微笑みを浮かべた。

「別に倦厭しているわけではないんです。大師兄に対しては尊敬の念もあります」

 あくまで師兄としてだが、と心の内で付け加える。
 一奇は己と自分が『臥龍』を争うものだと思っている。だからことあるごとに何かとつっかかってくるのだ。だが七奇はそんな彼の慢心を胸中では鼻で笑っていた。一奇の目はあるいは確かかもしれない。しかし、正直なところ七奇は一奇とそれを争うつもりはさらさらなかった。

「ただ、四師兄に対するものとは、少し違うだけです」

 それにただ「ふーん」と相槌を打つだけで、四奇は興味なさそうに再び駒を爪弾く。七奇の駒に命中し、位置を変えた。

「お、なんだ。珍しいな」

 不意に声がかかり、顔を上げれば丁度兄弟子二人が横を通り過ぎるところだった。彼等の房間もこのあたりになる。

「老二に老三」

 二人は二人で会話していたのだろうか。四奇の声に応じるように、連れ立って卓の横に立つ。
 面白そうな表情を浮かべて、三奇が卓を覗き込んできた。

「ほう、弾棊か」

 こんな雨の中物好きな、と二奇がその秀麗な白面を呆れに染める。

「老四、あまり雨風にあたりすぎないように。また体調を崩すぞ」

 二奇の小言に、四奇はただ笑って返した。
 それから一転して煩わしげに、

「いいところに来たよ二人とも。こいつどうにかしてくれ」

 と言って、七奇を指差す。

「やれ囲棊の相手をしろだ何だの、うるさくてたまらない」
「酷い言い様ですね」

 心外だとばかりに七奇は目を瞬く。

 「まあいいじゃないか、たまには相手をしてやれよ」三奇が微笑しながら言う。明らかに面白がっている顔だ。他人事だと思って、と恨めしげに四奇が睨み上げる。

「残念だな、俺達は今から老師より借りた奇書を読むんだ。悪いが相手はできない」
「そうだな」
「ええ! 何だよそれズルイ、俺も読みたい」
「また今度なー」

 愕然と意義の声を上げる四奇に、三奇はにやりと挑発的に口角を上げる。二奇は苦笑気味に首を傾けた。

「読み終わったら貸してあげるから」
「老二、俺もその次いいですか?」
「勿論だよ」

 見た多くの人間を和ませる微笑みで、二奇は快く答えた。
 それで終わりとばかりに、二人は手を振って去っていく。
 くそ、と毒づきながら、四奇は二人の背中を睨んでいる。

「……師哥、そんなに嫌がられるとさすがに傷つくんですが」
「お前の図太い神経の何処に傷がつくなんて殊勝な部分があるのか問いたいね」

 最大限に機嫌を損ねたらしい。彼は不機嫌なときほど口舌がよく回る。七奇はやや悄然として、師兄を宥めようと務めた。

「構われたいという弟心です」
「俺は煩わしいだけなんだけど」

 四奇は迷惑顔を隠さない。それから流れ落ちてくる髪をうざったそうに掻き揚げる。
 しきりになされるその動作に、七奇はふと話を変えるように首を傾けた。

「師兄、そういえば何故髪を結っていないので?」

 水鏡八奇は皆決まった髷をつくる。それゆえに、髪も長く伸ばされている。髷を結わないときも、邪魔なので大抵皆髪を括っている。
 だから、全く素のままにしている四奇の髪型に疑問を抱いた。

「面倒だったから」

 四奇の答えは至極簡潔でそっけない。

「でも、邪魔でしょう」
「まあな。でもどうせ華大夫が来たら鍼打ったりするから解かなきゃならないし」

 大体日常の身だしなみに気を使う二奇や、たまに見かねた五奇あたりにいつも結い上げてもらっているのだという。三奇に結い上げられた日には珍妙な髪型になるから絶対に避けるのだと四奇は語った。

「じゃあ、今日は俺が結って差し上げますよ」
「別にいいよ」
「邪魔なのでしょう?」

 眉根を寄せる四奇の答えを待たず、櫛は何処ですかと席を立ち、勝手知ったる他人の房間に入っていった。そのあたり、と適当な答えが返ってきて、仕方なく己で探す。さして難もなく、放置されている櫛を見つけて、それを片手に表に戻る。
 椅子に座る人の後ろに回り、その髪を手に取る。

「オトコにやってもらってもあんま嬉しくないな」
「それは申し訳ありませんね」

 暗に今日の妓楼遊びを妨げられたことを非難されているのだと知り、七奇は苦笑を滲ませる。
 持ち主気質に反して存外素直な髪質に、慣れた手つきで櫛を入れていく。ゆっくりと梳きながら、そこを支配する空気をじっと味わう。
 空間に雨音が鳴る。先程に比べれば大分雨脚が和らいでいる。雨気の中に、迫り来る夏の匂いを感じる。
 穏やかに流れる時間。苦しみも圧力もなく、自然体で日々思い思いに学び暮らしている今。
 いつまでこれは続くのだろう。
 いつまで、この時間を共有し続けられるのだろう。
 七奇は思う。
 もし、世に出ることになったら。
 もし、誰かの軍師となるべき時が来たら。
 もし、『臥龍』『鳳雛』が選ばれる刻が来たならば。
 もし、対峙するその瞬間が来たならば。
 今目の前に座る、自分がその才を認めている男はどう思っているだろう。その時を夢想することはあるだろうか。四奇の心中を量り知ることは難しい。
 だから七奇はただ祈りを込めて言うのだ。『その時』が来るのが少しでも後になるようにと。

「師兄、俺は貴方を尊敬してますよ」

 たとえ、貴方と相反することになっても。

「なんだ急に」

 気色悪いな、と四奇は薄気味悪そうに腕をさすった。




渇いた 静に 鼓動よ 萌えて 湧き出よ 伝え流がるる
聖なる 清き 地が息 震え 衝く 溢れ染み渡りゆく
囀り ささら 聞こゆる 響く 幸魂 映し出したる




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